DIYの再生 vs 巨大組織 - Johnny Lee

今日は特別ゲストのJohnny LeeにThe Re-Emergence of DIY vs Big Organizations(DIYの再生 vs 巨大組織)と題した記事を提供していただいた。完全な許可のもとにここに転載している。この記事は、Maker、発明家、そしていたるところにいるティンカラー(tinkerers)たちの知恵を活用したいと考えるあらゆる企業にとって、非常に有意義な内容だ。Johnny LeeはWiiリモコンの改造で知られ、何千ものプロジェクトを手がけている。最近では、Kinectのハッキングコンテストでいっしょに(Ladyadaも)仕事をさせてもらった。彼は先日、マイクロソフト研究所を去り、現在はGoogleで働いている。

この話題に関して私は、DIYホビーカルチャー本格的な学術調査巨費を投じた商業製品開発との間を行ったり来たりしながら、真剣に考えてきた。幸運なことに私は、予算規模が100ドルであったり1億ドルであったりと状況が極端に異なる人たちが、新しくて面白い物を作り出す様子を観察できる立場にいる。

私はそこで、ひとつの共通点を発見した。いいアイデアはどこからでも生まれるということだ。そこがいい仕事をするかどうかを見きわめるうえで、もっとも重視すべきファクターは、「そこの人たちが自分の仕事とどれだけ真剣に取り組んでいるか」だ。巨大予算や特権意識があるところでは、面白いアイデアは生まれにくいのが事実だ。すごいものを作るぞという「気負い」が人や組織の視野を狭めて、ビッグなアイデアにしか目を向けなくなる。後に大きなインパクトを与えるかもしれない小さなアイデアや、馬鹿げて見えるが実際はそれが正解だったというようなアプローチを排除してしまうのだ。

この問題に触れた Simon SinekのTEDでの講演が素晴らしい(編注:リンク先の動画は日本語字幕選択可能)。その中で彼は数多くの重要な指摘をしているが、私が注目したいのは、共に動力飛行を追求していたサミュエル・ラングレーとライト兄弟の逸話だ。ラングレーは巨額な資金を誇る専門的研究機関の人間で、対するライト兄弟は根性と情熱のDIY愛好家だった。ライト兄弟は、初めて動力飛行を成功させた人物として有名になっているが、ラングレーのことを知っている人は希だ。大きな予算は大きな結果の保証にはならない。反対に、予算がほとんどなくても、ひとつの問題に根気強く取り組む個人の意欲は、大きな結果につながる。(編注:サミュエル・ラングレー - Wikipedia

ハッカーコミュニティは、ほとんどの人が後者に属するという点が素晴らしい。独立系の開発者やホビイストの場合、自分が信じたプロジェクトに注ぎ込む自腹資金を厳しく管理している。結論として、潤沢な資金を持つ研究グループと、独立したコミュニティ(総体で)とでは、出てきたアイデアの質の差は、月単位でどんどん小さくなっていることに私は気がついた。最高の "趣味のプロジェクト"が、同分野の "本格研究開発" を質のレベルで越えていくのだ。こうした驚くべき差異の縮小(ときに反転)は、Kinectを使ったプロジェクトに関する刊行物用に提出された大学や研究所の作品を見れば、笑ってしまうほど明らかにわかる。Engadgetに掲載されたいちばん新しいKinectハックは、それらを完全にしのいでいる。

ここで、企業、研究所、大学などのプロジェクトの質は低下していると意地悪に断言してしまうのは簡単だが、私はそうは思っていない。私が考えるに、今起きているのは、独立系プロジェクトの質が向上(しかも急速に)していることだ。それは、私が見てきた "DIY革命" と呼応しているように思える。

しかしなぜ今、DIYが再生しているのだろうか。ほんの数年前まで、私たちは製品がブラックボックス化されていくことを嘆き、製品の蓋を開けて、改良したりいじくりいまわすことができた古き良き時代を懐かしんでいた。何が一体、これほど大規模なDIYの再生をもたらしたのだろう。そこで私の仮説を紹介しよう。

DIYコミュニティ再生に関する私の仮説
90年代から2000年代初期まで、ムーアの法則が世界を支配していた。電子機器を選ぶときの最優先基準は、単に速さだった。そのため、部品はできる限りきつきつにインテグレートされ、機能は小さい黒いチップの中に詰め込まれてしまい、普通の人間には触れることも改造することもできなくなった。だが今は、人々は "メガヘルツ" や "メガバイト" といった生の技術用語で語ることはなくなった。一般のコンピュータは "十分に速く" なったからだ。速さの代わりに私たちは、ポケットに入る、3Dゲームができる、タブレット型、車で使える、水中で使える、スノーボードに取り付けても壊れないなど、用途に合わせたスタイルを求めるようになった。つまり私たちは、ますます細かいニーズに対応するデバイスの製造(そして購入)が可能な "コンピュータパワー余剰" 時代に到達したのだ。こうしたコンピュータの用途を考えだした私たちの想像力は、ムーアの法則に先導されてきたわけではない。有り余るコンピュータパワーが、より多用な使い方を生み出してきたのだ。ところで、それがDIYコミュニティとどう関係があるのだろう?

そうした有り余るコンピュータパワーの副産物として、プロ用ツールの性能が向上に伴い、趣味の範囲で買えるツールの性能も、3~4年前に比べて格段に高くなった。プロの技術者向けの電子工作用装置とホビー向けの装置との差は、どんどん小さくなっている。Kinectが、それをいちばんよく物語っている。高性能な深度センサー付きカメラの価格が、一夜にして2桁下がってしまったのだ。そうして純粋な並行処理の結果、趣味のDIY愛好家が同じ分野の専門家を追い抜くという現象が起きた。これほどドラマチックではなくても、この他の電子機器や科学装置の分野でも同じことが起きている。裏庭の手作り電子ビームドリルでナノマシンを作るなんて時代も来るだろ。

どれだけ資源を持っているかではなく、どれほどいいアイデアを持っているかが勝負になる時代では、純粋に数のゲームになる。

ほぼ同じ性能の道具を持った1万人のプロの技術者と100万人のホビイストとでは、どちらの進歩が早いだろうか? ここで考えるべきは、1万人の技術者には年間10万ドル支払わなければ仕事の意欲が維持できないが、100万人のホビイストは、ただ好きでやっているという点だ。さて、あなたの答は変わったかな? それでも専門家が勝つとお考えのあなたでも、この2つのグループの進歩速度の比率を見れば、いつか作業結果が同じになる時がくると認めざるをえないだろう。これは単に時間の問題だ。

以上の話をご理解いただけただろうか。鉄壁の仮説とは言わないが、今私たちが目にしている現象をうまく分析できていると思う。そしてこの話には、現在、大手研究グループに投資をしている組織への面白い暗示も含まれているのだ。誰がいちばんいいアイデアを持っているかが単純に最重視されるようになると、そうした人を大勢集めて雇用することが非常に難しくなる。"最高" の人材を捜すための労力も大変だ。それは株式市場を予測するのと同じぐらい困難でもある。発明家は、いつかアイデアが枯れる。そのため、一生分の投資に見合うだけの見返りは得られない(私自身にも、きっとそのときが来る。ずっと先であってほしいけど)。

そこで私は、大手研究組織につの提案をしたい。

  1. 資源集約型の問題と徹底的に取り組むこと。現代、数万ドル単位の資金ではまったく話にならず、ホビーレベルでは基本的な材料も道具もエネルギーもコンピュータも場所も人材も揃えられない、大型加速器や宇宙開発などの巨大プロジェクトは、目標を達成するまでの間に短期的な利益を生むことは難しい。しかし、予想もしない派生技術やプロジェクトが、そこから離れたところの経済や教育に恩恵をもたらすことは十分に考えられる。

  2. 組織内のすべての人材に創造的研究を奨励する。 道具は安い。それに"研究グループ" だけがよいアイデアを生む場所ではない。どこに閃きがあるかは誰にもわからない。だから、すべての人にアイデアを考えさせ、閃きを見逃さないように注視する。

  3. 外部の開発者コミュニティと手を結ぶこと。 すでにあなたが先行して持っている資源を活用し、あなたが管理するプラットフォームを通じて大勢の創造的パワーを引き出す。計画性をもって進めれば、これが莫大な価値を生む。何もないところからほんの3年以下で業界を支配するまでに至ったFacebookやTwitterやGrouponなどの企業な、これが推進剤だった。同じことは、伝統的な物理電子やその他の一般製品にも絶対に起こりうる。方法は簡単。すべての顧客を、潜在的な捕食者と考えるのではなく、潜在的パートナーとして扱うことだ。

訳者から:Simon Sinekの講演はとても興味深い。なぜアップルの製品は、他社の製品と性能が同等でも人気があるのか。それは、一般のメーカーが「何を」→「どうやって」→「なぜ」作るかという順序で考えるのに対して、アップルなどの人気メーカーはまったく逆の「なぜ」から発想しているからだと言う。 最初に「気持ち」があるという点がライト兄弟と通じる。

- Phillip Torrone

原文

Posted by Tetsuo Kanai | Apr 8, 2011 04:00 AM
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