追い風より速く走る風力車、Blackbirdが記録を樹立

201011041335風力車 Blackbird。写真提供:Steve Morris

序文
Mark Frauenfelder

2007年、Makeのプロジェクトエディター、Paul Spinradが風で走る車のビデオの YouTubeリンクを私に送ってくれた。これは、フロリダのJack Goodmanという人が作った風力車が、追い風よりも速く走行しているように見える映像だった。追い風よりも速く走るなんて、あり得るのだろうか。我々は戸惑った。そこで、Paulと私は外部編集者のCharles Plattに実証実験を行わせて、その結果をMakeの記事に書いてくれと頼んだ。

Charlesは小さな車を製作したが、追い風より速く走らせることはできなかった。Charlesはその記事(Make英語版 Vol.11。日本語版 Vol.04に翻訳記事が載っています)にこう書いている。「Jack Goodmanは、この件に関して巧妙な説明を用意しているだろう。あるいは、彼のものとまったく同じに作らなかった私が悪いのかもしれない。真偽を確かめるには、みなさんが自分で作って試してみるほかはない」Goodmanに担がれたのだとCharlesは結論づけた。

この記事の掲載号が発売されるや、Makeの掲示板は(これや、これや、これや、これなど) DDWFTTW(Directly Downwind Faster Than The Wind:風より速く風下に走る)の理論的、現実的な可能性の議論で燃え上がった。私に電子メールをくれた人たちもいたが、その中に、Rick Cavallaroがいた。彼は、Makeの記事で製作した車の設計上の誤りを指摘してくれた。そして私たちは、Jack Goodmanの設計を正しく理解していなかったかもしれないと考えるようになった。私はRickに追跡調査記事をMakeに書いて欲しいと伝えた。ただし、私がその後の調査を行い、Rickが納得のいくDDWFTTWの実証実験に成功したらという条件だ。Rickは快諾してくれた。そしてそれから数カ月間、私は彼の研究成果を待ちわびた。

その間、私は風力車のマニアや懐疑論者や物理学者やJack Goodmanとも連絡を取り合うようになった。そこには明らかな意見の一致はなかった。物理学者たちからはDDWFTTWは不可能だとも言われた。しかし、私の心はだんだん提唱者側に近づいていった。

そして2010年7月、Rickから知らせが入った。彼とその仲間たちは、彼らが製作した風力車を南カリフォルニアにあるエルミラージュのドライレイクに持ち込んで走行テストを行い、風速の2.8倍の速度を記録したというのだ。このテストは、北米ランドセーリング協会(NALSA)の公式立ち会いのもとに行われた。これには説得力がある。そこで私は彼に執筆を依頼した。以下が彼の記事だ。

DDWFTTWは可能か? 2007年には信じなかったが、2010年の今、私は信じている!

Make英語版編集長 Mark Frauenfelder

夢を叶えた風力車

Rick Cavallaro

真後ろからの風を受けて、その風の力だけで風より速く走り続ける風力車を作ることは可能だろうか?

私は数年前にそんな疑問を抱いた。いくつかのベクトルを試してみた結果、それは製作可能だと確信するに至った。しかし、感覚的にはどうにも受け入れがたいものであるため、私はカイトサーフィンのフォーラムとラジコンヘリのフォーラムに考えてみてほしいと質問を投げてみた。

驚いたことに、私の答えを信じる人は非常に少なく、たいていは、私のベクトル解析を受け入れてはくれなかった。

しかし、もっと驚くことがあった。Andrew Bauerという航空技術者が、1960年代に、まさにその車を作っていたのだ。ただ、Bauerが自作の車の横に立っている写真が数枚あるだけで、それ以上の証拠がほとんどない。Bauer自身が、わずかな時間、追い風よりもある程度速く走ったと主張している以外には信頼に足る資料もない。

次なる驚きは、Jack Goodmanという男性が実際に動く模型を製作したと知ったときだ。これは現在、インターネットで大変な論争になっている。Goodmanはヨット仲間に証明してみせたかっただけなのだそうだが、仲間のひとりがインターネットにビデオをアップしてしまったのだ。

これは火に油を注ぐだけの結果となった。インチキだという批判が起こった。ヒモで引っ張っている、下り坂だった、風は真後ろから吹いていない、風が一定でないなどなど。Goodmanはこうした批判に反論するためのビデオを作って公開することもできただろうが、私たちの調査が進むにつれ、それは容易なことではないとわかった。それをしても、信じる人が増えるとは思えない。

2007年、Makeは「夢が叶わななかった風力車」と題したCharles Plattの記事を掲載した。この記事はGoodmanのビデオをもとに書かれたものだが、Goodmanはインチキだと結論づけている。

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小型の実証模型。写真提供:Rick Cavallaro

苦労して学ぶ

2年以上もインターネットで論議が続き、私の古いハンググライダー仲間 John "JB" Bortonは、みんなを説得したければ、自分たちで作って疑いを晴らすしかないと私に訴えてきた。そして、私たちはそうすることにした。

疑いを晴らすためには、道が平坦であること、風が一定に吹いていること、下り坂ではないこと、ヒモで引っ張っていないことを証明するために、私たちは厳しい条件のもとでテストを行い、資料を製作することにした。飛行機ならば風洞装置を使うところだが、風上ではなく、風下に向かって走る車なので、私たちの実験には、むしろ、ごく普通のルームランナーが相応しかった。

道の上に風を吹かせるかわりに、私たちは空気の下の道路を動かすことにしたのだ。これには、ガリレオとニュートンとアインシュタインがこう言って応援してくれた(というか、もっとも基本的で誰もが認める物理法則なのだが)。車の視点から見れば、どちらもまったく同一の条件であると。

もし、水平なルームランナーの上で車が同じ位置を保つことができれば、それは追い風と同じ速度で走ることの証明になる。ベルトの動きに逆らって前に進めば、追い風より速く走ることの、とってもわかりやすい証明になる。

もちろん、部屋の中に風が吹いていないのだから、この証明は無効だと言う人もいるだろう。だが、これはあくまで車の視点から見たときの条件なのだ。自転車に乗って追い風とまったく同じ速度で走っているときは、まったく風を感じないではないか。

ビデオはネバダ州アイバンパーのドライレークで2日間にわたって撮影した初走行の様子。

この小さな車は、私たちの予測とまったく同じ走りを見せた。平らなルームランナーの上で停止しただけではない。ベルトの動きに逆らって前進したのだ。ルームランナーを最大角度まで傾けてみたが、それでも車は前進した。

それでもまだ、信じない人はいる。そこで、彼らを招待してテストを披露することにした。カメラで周囲を撮影して、扇風機もヒモもないことを見せた。ルームランナーの前と後ろに吹き流しをつけた。車の前に扇風機を置いて向かい風を当ててみた(これはリクエストがあったからだ)。ここまでやっても信じない人たちがいた(Plattもそのひとり。著名な物理学者や航空技術者もいた)。

結局、私たちは、車を製作するところから詳しいビデオを作って公開することにした(パート1パート2パート3)。これなら、誰でも同じ車を作って自分で実験ができる。部品代は40ドル程度だ。テキサスでは、私たちの設計をもとに高校生のグループが車を製作してくれた。なんと20ドル以下の予算でだ。結果はどうだったって? この実験で、科学フェアに優勝したそうだ。

フルスケールに挑戦

すべての人を説得できないまま、ハンググライダーとカイトサーフィンの季節が近づいてくると、JBは人が乗れるフルスケールの車を作ろうと言い出した。外の自然の風で走らせて、信頼できる人たちに立ち会ってもらおうというのだ。私たちは、そうすることにした。

Joby EnergyとGoogleから資金協力を得て、私たちは重さ約200キロ、高さは、直径5メートルのプロペラの先端までで約7メートルという車両を製作した。そして私たちは、北米ランドセーリング協会(NALSA)に対して、スピード記録の、追い風を受けて風よりも速く走る車両の部門を作るよう提案した。それから数カ月間、NALSAと共同で作業を進め、ついに、2010年7月2日、カリフォルニア州モハベ砂漠のエルミラージュ・ドライレークにて、追い風の2.8倍というスピード記録を樹立したのだ。

201011041307風力車 Blackbird。写真提供: Emilio Castano Graff

それでもまだ信じない人たちがいるが、いまだに地球が平らで人類は月に行っていないと信じている人たちもいるぐらいだから仕方ない。ここで私たちは、今回の実験結果と、何人もの人々の信念を変えられたことに満足することとした。そしてなにより、「夢を叶えた風力車」で記録を打ち立てるきっかけを与えてくれたMakeに感謝したい。

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風力車 Blackbird。写真提供: Steve Morris

Makeの精神と科学的探求心を持つみなさん、ぜひ私たちのビデオを見て車を作ってください。簡単に作れます。もし、どうしても追い風よりも速く走るということが信じられないならば、とにかく自分で確かめていただきたい。

ビデオ
ビデオは、エルミラージュでの走行中に、Richard JenkinsがJBのトラックの荷台に乗って撮影した。
アイバンパーでの初走行
アイバンパーでの2回目の走行
アイバンパーでの最後の走行
ディスカバリーチャンネルで紹介された Blackbird。
NALSA による世界記録の公式発表。

今後、風力車の提唱者と反論者に関する記事をMake: Onlineに掲載します。次回は、あの話題の人 Jack Goodmanのインタビューを掲載する予定です。--Mark Frauenfelder

編集者より:Make英語版 Vol.11でこの風力車について記事を書いたCharles Plattに反論のチャンスを与えました。彼の答えを下に掲載しました。その下は、Charlesに対するRick Cavallaroの答です。

風に向かって走る車は、プロペラの回転を適正なギヤ比で伝えてやれば実現できると思っています。私が信じがたいと感じたのは、追い風を受けて、停止状態から走り出して、やがて追い風と同じ速度に達し、さらに加速し続けて風速を超えるということ、言い換えれば、風速の変動もなく、途中でギヤチェンジすることもなく、完全な向かい風の中を進めるということです。それが、あのフロリダのオリジナルのビデオが示そうとしていたことであり、論争はそこから始まりました。今でも私は、あのフロリダのビデオは作り物だと思ってます。

Rick Cavallaroの車について、私はよく知りません。興味もありません。それは、Rickが私を憎んで見下して口汚くののしっていることや、上で述べたように、あの車が風に向かって走るものであれば信じられるという点が原因しています。私がMakeの最初の記事のために作った簡単な車でも、大型扇風機の強力な風に向かって走ることができました。繰り返しますが、私が信じられないのは、彼の車でも、その他の車でも、停止状態から追い風を受けて走りだし、風速と同じになるまで加速し、途中で何もせずに、さらに加速を続けて風よりも速くなるという点です。

私はそこをクリアにしたいがために主張を続けてきたのです。 -- Charles Platt

Platt氏は現実の結果を拒否し続けているように思えます。それは、私が彼を「憎んで見下して口汚くののしっている」と信じているからでしょう。皮肉なことに、私たちは物を見る基準が違っているだけで、状況は似ていると感じました。私が立っている場所から見れば、Plattから私への電子メールは、悪口と蔑視のスタイルを保っています。たぶん、この点に関して私たちは、双方正しくもあり、または間違ってもいるのでしょう。

残念なことに、Plattの記事は、真面目な人間(Jack Goodman)への不当な攻撃となってしまいました。彼に直接コンタクトを取ることも、彼の実験を再現することもなかったため、私には不公正に見えました。私の唯一の望みは、記録の樹立でした。NALSA(信頼できる独立した非営利団体)が承認した結果を受け入れられないPlattや他の多くの人たちとは違い、私は現実を受け入れることができます。これはこれとして認めて、どうかこれ以上公衆の面前でケンカをするのはやめましょう。-- Rick Cavallaro

訳者から:にゃんか、後味悪い結果になっちゃったなー。2007年の記事はボクが訳したんだけど、そのときは、ぜったいあり得ないと思っていた。あのときボクも車を作って実験したんだけど、作り方がヘボかったからうまくいかなかった。でもこの車、ぜひ作って確かめてみたいね。

- Mark Frauenfelder

原文

Posted by Tetsuo Kanai | Nov 17, 2010 01:00 AM
Education, Science | Permalink | Comments (3)

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Posted by: NaO on November 19, 2010 at 3:01 PM

プロペラでタイヤを駆動すると思うのが間違い…かも

2〜3日悩みましたが、だいたい理解できました。
これ、プロペラで風からエネルギーを得てタイヤを駆動するのではなく、タイヤの回転でプロペラを駆動して推力を得ているんです。
プロペラの形が、後ろに向かって風を送るようになっているでしょう?
でもそれって永久機関じゃ…と指摘するのは早計で、追い風を受けているからそう言うことが可能なんです。
発進時にバックしてしまわないのは、ギア比によって、プロペラがタイヤを駆動する力より、風に押される力の方が大きいからでしょう。


Posted by: アノン on November 19, 2010 at 11:20 PM

興味深い

プロペラの回転で推力を得るとすると、車視点では途中で追い風から向かい風に変わるポイントが存在します。
そのポイントを乗り越える理由をはっきりさせれば誰もが信じるのではないかと。
実際の風は風速にムラがあるから乗り越えられるのか、時間的なズレで越えることができるのか。
現象は確かなので、理論的な検証が欲しい所です。


Posted by: NaO on November 21, 2010 at 5:10 PM

クルマ視点の風向きはあまり関係ないです。

プロペラ推進の飛行機が、追い風で滑走を開始するようなものですから。
或いはヘリコプターがパワーをかけたまま降下するような。
飛行機の場合、十分なパワーがあるので、停止して追い風を受けていてもプロペラは推力を発生していますが、このクルマの場合、滑走開始時のプロペラは失速状態で、プロペラとしては役立たずです。
ただ追い風から空気抵抗を受けて車を前に押す役割しかしていません。帆掛け船の帆ですね。
速度が上がり、プロペラの回転数が上がるにつれて失速状態を脱して推力を生むようになります。
おそらくその時点でもクルマ視点で追い風を受けているはずですが、ここまで来れば上の飛行機のたとえと同じになります。
で、クルマから見て無風になるまで加速したとき、地面に対しては前進しているので、プロペラはタイヤから駆動されて推力を生んでいます。しかも、前から吹く風の抵抗は受けないので、更に加速することができます。
いや、実際は他にもいろいろ考慮しないといけないんですけど、まぁ、単純に言えば、そう言うことかと。


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