オープンソースハードウェアはいかにKickstarterをキックスタートさせるか

朝起きたら、見ず知らずの人がまったく無断で、あなたが開発した電子回路を製品に使っていた。使用料などは一切受け取っていない。その製品の価格は31,000ドル以上もする。彼らは、あなたが心血注いで作り上げた回路で儲けようとしている。あなたの回路が、どんなものに使われるのか、あなたには手出しも口出しもできない。これって、悪夢じゃない? ある人にとっては悪夢だが、これが理想の世界だと言う人もいる。これが今週のSoapboxのテーマだ。オープンソースハードウェアがKickstarter(キックスターター)をキックスタートする!
では始めよう。:)

Kickstarterは、物を作る人たちの間で、瞬く間に大人気の高い資金源となった。世界最大の資金支援基盤とも言われている。それには十分な根拠がある。

1Mks

Kickstarterの「後援者」が100万人を越えた。それだけではない。まだある。

Kickstarterの後援者たちは、プロジェクトに対して1億ドル以上もの支援を約束した。他の基金と比較してみると、たとえば全米芸術基金の2011年度の予算が1億5400万ドルだ。毎週200万ドルずつ支援額が増えているKickstarterの今のペースが変わらないとすると、1年間に1億ドル以上もの支援が約束されることになる。

このMakeでもどんどん増えている。斬新なアイデアを持ってない? それを実現させるための十分な技能がある? ならばKickstarterにプロジェクトを提出してみよう。それが彼らのガイドラインに合えば(ここに彼らの好みが関与する)、プロジェクトを公開して資金を募ることができる。資金の平均は71ドルだ。後援者の出資金額でいちばん多いのが25ドル。資金援助をすると、製品のTシャツなどのような記念品がもらえるのも、出資を促す要因になっている。

Lunatik Exploded

今までにいちばん多くの資金を得たプロジェクトは何か? それはAn iPod nano watchだ。ほぼ1億ドルの資金を獲得している。では、彼らのガイドラインとはどんなものか? 以下が概要だ。

Pt 101794

Kickstarterには「school」というページもあり、優れた「キックスターター」になるための方法をステップバイステップで教えている。

どんなタイプがいちばん資金を得ているか? 今のところ、デザイン技術のカテゴリーだ。これは納得できる。それが欲しいかどうか、支援したいかどうかがわかりやすいからだ。

しかし、プロジェクトの多くはオープンソースだ。つまり、資金援助を受けて作ったソフトウェア、ハードウェア、回路図、コードなどは、すべて公開してしまうことになる。そこは好感の持てるところであり、優れたプロジェクトや私が好きなプロジェクトの社会性が示されるところだ。

ではなぜ、オープンソースにするのか? ただそうしたいから、という理由もあるだろうが、オープンソースのプロジェクトを利用しているからという理由もある。オープンソースを利用すれば、自分で開発する労力を削ってお金が稼げる。元のオープンソース・プロジェクトと同じライセンスで発表して、変更点を公開すればよい。ソフトウェアの場合は、これがすごく便利だ(今は世界はフリーソフトの上に成り立っている)。ハードウェアの場合も、オープン化に人気が集まっている。どうしてか? その理由は、後ほど実際のMakerに話を聞くとして、まずは私の意見を述べる。オープンソース・ハードウェアは、より多くのKickstarter利用者の原動力になりつつあるのだ。

ここに、Kickstarterプロジェクトにオープンソースハードウェアが使われた例と、プロジェクトそのものがオープンソースであった例の中から、私が素晴らしいと思ったものを紹介しよう。




259,000ドル


76,000ドル




53,000ドル



26,000ドル



18,000ドル



8,000ドル



8,000ドル



38,000ドル


ここらで疑問に思う人もいるだろう。たしかに、オープンソースハードウェアが使われた面白い製品がKickstarterから世に出ることもあるかもしれないけど、実際にそうしている人はいるのか? 誰がそんな話をしているんだ? とね。私がそれを知っていて話をしているのか、それとも、またいつものように、オープンソースハードウェアはいいものだと扇動しているだけなのか。

そういう人は実際にいる。私はbootstrapsolar.comのRyo Chijiiwaにインタビューをした。彼は、オープンソースハードウェアを使った私の好きなプロジェクトの開発者で、最近、Kickstarterから資金を得た。それは、私も開発を手伝ったAdafruit(ニューヨークのオープンソースハードウェアのメーカー)の技術を元にしている。オープンソースハードウェアを利用したプロジェクトはたくさんあるが、そのなかでもこれは私がよく知るものであり、Kickstarterで資金を獲得できたことをうれしく思っている。

彼がどのようにしてエレクトロニクスの世界に入ったのか、そのときオープンソースハードウェアはどんな役に立ったのかを、彼自身の言葉で語ってもらおう。大勢の人から資金を集めて行うプロジェクトとはどんな感じなんだろうか。貴重なMakerの証言だ。では、Ryoにご登場願おう。

インタビューに応じてくれてありがとう。
こちらこそ、ありがとう。

まずは自己紹介を。
私の名前はRyo Chijiiwaです。ソフトウェア技師としての教育を受け、Yahoo!やGoogleなどのシリコンバレーの企業で働いていたことがあります。2009年に会社をやめて、カリフォルニアの北東地区に未開の土地60エーカーを購入しました。そこで2年間、「ミニマリストの快適性」と自分で言っているのですが、そんな生活を追求しました。それは、2軒目の小屋を建て、冬期に1カ月間、自分の土地から一歩も外へ出ずに過ごせたときに達成できたと考えています [1]。それから2カ月間、日本の震災復興ボランティアに参加したあとに、文明社会に戻ってきました [2]。

エレクトロニクスを作ろうと思ったきっかけは?
ホントのことを言って、物作りはすごく好きだったのですが、これが、中学校以来、初めてのエレクトロニクス・プロジェクトなんです(プログラミングは高校で目覚めました)。
このプロジェクトを思いついたのは、日本で3月に起きた大震災と津波の直後でした。もっとも被害の大きかった地域で、驚くほど多くの被災者が話してくれたのですが、食料、水、燃料、薬品といった必需品の次にいちばん欲しいと思ったのが、携帯電話を充電する方法だということでした。これは現代的な問題だと感じました。今ほど私たちは、あの小さなデバイスに依存している時代はありません。この現象は、高性能なスマートフォンの登場によって、さらに広まるはずです。

被災による問題は数多くありますが、これは比較的簡単に解決できるものだと感じました。私が山小屋で暮らしていたとき、唯一の電源は、ちっぽけな145Wのソーラーパネルだけでした。その程度のものでも、数台の携帯電話を充電するには十分で、安いし扱いも簡単です。100~200ドルの装置で携帯電話5台は充電できることを私は知っていました。それによって、外の世界とのつながりを保つという体験をしていました。

1カ月後、私は日本に飛び、もっとも被害の多かった地区のひとつである岩手を拠点にしたアメリカ人組織によるボランティア活動に参加しました。そこで私が行ったのは、約10名のボランティアを連れてこの隔絶された街に入り、津波に襲われた人家の中に文字通りキャンプを張りました。電気は来ていません(壁も半分ありません)。私たちは3つの拠点を作って作業しましたが、それらを束ねるためには携帯電話が必要でした。もうおわかりでしょう。携帯電話の充電にとても苦労したんです。ボランティアの1人はソーラー式充電器を持っていましたが、ほとんど使い物になりませんでした。

その後、BootstrapSolarを立ち上げようとしていたときに、あのときの体験から、ポータブルなソーラー式携帯電話充電器を作ろうと閃いたのです。ソフトウェア技術者なら、今あるものに満足できなければ自分で作るというのが普通です。エレクトロニクスの経験はほとんどありませんでしたが、それと同じメンタリティーでスタートさせたのです。

BootstrapSolar とは?
BootstrapSolarは私の会社の名前です。まったく資金のないところから自力で立ち上げるわけで(2年半無職でしたから)、文字どおり、bootstrap(ブートストラップ:自力でやること)だったわけです。ハードウェアの会社を立ち上げるには、天才であるか、資金がたっぷりあるかのどちらかでないと難しいのが実情ですが、私は天才ではないし、すっからかんでした。だから、創造的になろうと考えたのです。

事業提案書を書いたり資金集めをするより、まずは製品を作ってから自力で立ち上げていこうと考えました。ソフトウェア業界で普通にやっているようにね。最初に思いついたのは、災害時用のものです。避難所にしまっておけるキットや、災害時に配布できるものです。しかし、いろいろ考えるうちに、もっと小さくて幅広い人たちに使ってもらえるものがいいと思うようになりました。日本と私の土地での経験を元に、安価ながら実用的なパワーのあるソーラー式の携帯電話充電器を作ろうと決めました。私が作ったのはそれです。

BootstrapSolar Power Pack Kit(そのあとすぐにChi-qooと改名)[3] は、ポータブルなソーラーデバイスで、携帯電話やiPadや電子書籍リーダのような小型の電子機器に充電ができます。5Wのソーラーパネル(オプションを追加すれば10Wまで拡張可能)、6000mAh/22Whのリチウムポリマ電池、1.5Aまで対応する2つのUSBポートを備えています。竹製のケースがつきます。キットで販売する予定なので組み立てが必要です(ハンダ付けは必要ありません)。仕組みは極めてシンプルです。ソーラーパネル(またはバックアップとしてコンセント)から内部バッテリに充電します。その電気をUSBポートを使ってデバイスに充電します。

Kickstarterを使おうと思ったわけは?
自前の予算で実際に使えるプロトタイプを作ることができましたが、これを製品化して販売するには、それなりのお金がいることもわかってました。起業家の友人に相談したところ、クールなハードウェアプロジェクトがいくつも利用しているKickstarterを薦められたのです。私は、大勢から出資を募るという理想主義的な考え方も気に入りました。シリコンバレーの上場企業で働いていたとき、私は昔ながらの投資家や株主たちに幻滅していました。いわゆる「企業欲」というものが、企業が成長することによってのみ利益を得る株主たちに由来していると感じられたからです。そのため、株主は企業に成長を強要します。まるで癌のごとく、永遠に成長するようにです。役員たちは合法的に株主に資するように働くため(普通は役員自身も株主です)、こうした力学のために、企業は社会的あるいは環境的コストが高くつく仕事をせざるを得なくなります。これは準最適モデルです。それに代わるの有望な選択肢のひとつがCrowd-funding(クラウドファンディング:大衆から資金を調達する仕組み)です。これを使えば、ウォール街を回避できます。

オープンソースのハードウェアとソフトウェアは、どのように役に立った?
オープンソースのハードウェアとソフトウェアがなければ、このプロジェクトは実現していなかったと思います。私はこのプロジェクトを6月の末に開始しましたが、7月1日にOpen Source Solar Lipoly Charger [4]がLadyadaから発表されたときは、神の啓示を受けた気分でした。エレクトロニクスの経験がまったくなかったので、自分では絶対に設計できませんでした。誰かを雇って作らせるなんてことは、経済的に不可能でしたし。それがオープンソースであったことが、決定的でした。それを自分の用途に合わせて変更できるわけですから。

ソフトウェアでは、オープンソースのグラフィックソフトInkscapeで竹のケースのレーザカット用データを作りました。市販のグラフィックソフトを購入なければならなかったら、予算の4分の1は吹っ飛んでいましたよ。オープンソースではありませんが、プリント基盤設計用ソフトEagle CADや、3DモデリングソフトのSketchUpなどのフリーソフトも利用しました。

オープンソースハードウェアを元に作ったプロジェクトだけど、あなたはこれをオープンソースとして公開するつもり?
ええ、すべてのデザインをオープンソースライセンス(またはOSH互換のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス)の元で公開する予定です。回路設計の一部は、すでにGitHubで公開しています [5]。そのほかのデータも、仕上げができ次第、公開していきます。

BootstrapSolarはクラウドファンディングの支援を受けているので、私も、支出を公にして、ビジネスのあらゆる側面をオープンに透明にする必要があると考えています [6]。これはもともと、シカゴでOpen Produce [7] という、経営の透明性を高めた食料品店を経営している友人の考えでした。

もうひとつ、先日私は、私のキットのクローンをフィリピンで大量生産したいという人から連絡をもらいました。オープンソースハードウェアだからこそ合法的に可能なベンチャーです。それでは私が損をすると考える人もいるでしょう。たしかに、私が自分で販売するキットの価格では、市場で生き残ることはできません。しかし、革新の曲線上で常に先を行っていれば、競争力を維持することができます。クローンであっても、製品を製造して発売するまでには数週間から数カ月という時間がかかります。だから、2カ月にひとつのペースで新製品や新バージョンを出していけば、常に前を歩くことができます。さらに、物作りの経験には、単に物理的な製品以上の価値があります。それがあればコピー商品に勝てると自負しています。

Adafruitの開発者、Limor "Ladyada" Friedと話したことは?
はい。彼女のソーラー充電回路に私が改良を加えたものを製造販売して、売り上げの一部をもらえないかと頼んだことがあります。これは自分の労力を減らすための策でした。私が彼女のデザインを利用したことで、彼女にも儲けがあるわけです。実現はしませんでしたが、これからも、いろいろな製品を買って彼女を応援したいと思ってます。私は個人的には、オープンソースは共有することだと考えています。私のようにオープンソースを利用するものは、どこかにその利益を還元しなければいけないと思っています。

あなたのプロジェクトの目標は?
今のところはキットの製造で手一杯です。BootstrapSolarはワンマン経営なので(インターンを2人ほど雇うことを考えてますが [8])、仕事が山ほどあります。それに、日中はフルタイムの仕事を始めてしまったので、2つの仕事をなんとかこなすことでいっぱいいっぱいです。昼間の仕事を終えると、その足でTechShopに向い、深夜に閉店するまで、BootstrapSolarの製品を作って、帰宅するという毎日です。帰宅と言っても、実は昼の仕事をしている建物の中の空き部屋です。忙しすぎて、アパートを探す時間もありません(そんな気にもなれません)。毎晩、私はKickstarterの後援者から送られるメッセージに返事を書きつつ、回路設計やレーザーカット用のデザイン変更に没頭しています。だから、当面の私の目標は工房を持つことです。それが実現すれば、もっと多くのアイデアを効率的に進めることができます。究極的には、BootstrapSolarを経済的にも環境的にも持続可能なビジネスにしたいと考えています。そしてもちろん、世界制服です。

この製品がうまくいったら、また Kickstarter を使う?
私はKickstarterの基本的な考え方が好きなんです。創造的なプロジェクトに対して最上級のサービスをしてくれると思っています。とは言うものの、私はKickstarterを、彼らが本当に意図しているのとは違う形で利用している部分もあります。なので、私が本当にやりたいと思うことができない困難もあります。たとえば、後援者のほとんどが予約を入れてくれますが、個別のオーダーに手作業で対応しなければなりません。また、後援者への報酬の形や、資金の使い方にも制限があります(たとえばカーボンオフセットの購入はできません。カーボンオフセットには「金銭価値」があるからです)。ルールのなかには「Amazonペイメント」に関連するものもありますが、特定の人の事情に合わせたルールもあるようです。

私のプロジェクトはうまくいきました(私が提示した目標の400%をわずかに下回るでした)が、私は最初、彼らの趣旨にそぐわないとして断られているのです。彼らの言うことも、ある程度はわかります。私はこの最初のキットの売り上げから、次のプロジェクトの資金を作ろうと考えています。しかし、またクラウドファンディングを利用したいと思ったときは、別のサービスを選ぶでしょう。Kickstarter以外のものがあるかどうかは知りません。なかったとしても、もっとスモールビジネスに対応したクラウドファンディング・サービスが現れるのは時間の問題だと思います。

[0] http://www.bootstrapsolar.com
[1] http://laptopandarifle.wordpress.com/project-31/
[2] http://www.youtube.com/watch?v=AwU?meig7k
[3] http://www.kickstarter.com/projects/ryochijiiwa/bootstrapsolar-portable-power-pack-kit
[4] http://www.adafruit.com/products/390
[5] https://github.com/ryochiji/BootstrapSolar
[6] https://docs.google.com/spreadsheet/ccc?key=0AvQAiC0IZUdbdHU2V3BRZkNTUEo4cmNfMTFRZHVOeXc&hl=en_US#gid=0
[7] http://openproduce.org/

[8] http://bootstrapsolar.tumblr.com/internships

Kickstarterは最初のクラウドファンディング・サービスではないことを指摘しておきたい。最後でもない。あのスターバックスもサービスを検討中なのだ。以下はスターバックスの CEO、Howard Schultz の考えだ。

アメリカ人は、スターバックスを仲介者として、自らのスモールビジネスを支援するようになる。スターバックスは、スモールビジネスへの投資を目的とした金融サービスを開始する。スターバックスの客は、コーヒーを買う際に寄付ができる。5ドル以上の寄付をされた方には、赤と白と青のリストバンドが贈られる。それには「Indivisible」(不可分)というSchultzの言葉が刻まれている。「これによってアメリカンドリームが誇りを取り戻すことを期待している」とSchultzは語っている。キャッチフレーズはこうだ。「アメリカ人がアメリカ人を支援する」



最後に、愛のあるこのKickstarterプロジェクトを紹介しておこう。

Makerムーブメントが広がるにつれて、私たちはいくつもの目標を達成してきた。作ったものを共有する方法(MAKE magazine / MAKE blog / Maker Faire、Make: Projects、Instructables)、人と出会って物を作る場所(ハッカースペース、TechShops、ミートアップ、DorkBots)、作るためのツール(Inkscape、MakerBots、レーザーカッタ、gEDA、kiCAD)、作ったの物を売る方法(Etsy、キットビジネス、Maker Shed、直販)、そして、プロジェクトの資金を得る方法(Kickstarter)もある。夢に描けば作れる。そして今やそのための資金も得られる。それが現実になった。さらに、オープンソースハードウェアを使えば、それを利用すると同時に、元のデザインに価値を還元することもできる。今、私が興奮しているのはその点だ。オープンソースハードウェアがもっと増えれば、Kickstarterにもさらに素晴らしいプロジェクトが登場するはずだ。

- Phillip Torrone

原文

Posted by Tetsuo Kanai | Nov 4, 2011 12:00 AM
Green, Makers, Open source hardware | Permalink | Comments (0)

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